「国勢調査を止めよ」orz 3/3(細かい部分を若干修正しました。)

tenkaiさんのブログエントリ「国勢調査を止めよ」へのツッコミ、最終章です。


調査される側だって、面倒だろうし、年収やらを答えるのは嫌だろう。
個人情報について厳しい時代に、本当にこんな調査が必要なのか疑問だ。
大体の人口など、ある程度役所は把握しているし、なんのための調査なのかわからない。

「面倒」という意識、これが起こるのは仕方のないことです。
実施する立場のわれわれが、国勢調査知名度を上げ重要性を理解してもらう、そういう努力を惜しまずやっていく以外にないかなと。

「こんな調査」という言葉は、きっとその調査項目から出てくるものだと思いますが、そうだと仮定して反論します。
(ただし、ここでは総論にとどめ、事例や各論は今後別エントリで個別に採りあげていきます。)


日本の国勢調査で設定されている20項目、これは国が統計委員会という機関の答申を経て判断し定めたものを、閣議決定して国勢調査令にも明記されたものです。
それだけではありません。
順序は前後しますが、それに先立つ現行統計法成立の際、衆参両院から

国勢調査については、引き続き精度の高いデータが得られるよう、国民意識や社会経済情勢の変化、情報通信関連技術の進展等を踏まえ、調査方法の見直しを進めるとともに、国勢調査の目的及び重要性について国民への周知を徹底すること。
(以下略)*1

という付帯決議がなされています。


要するに、政府も国会も「必要である」と認識しているわけです。
明日の事業仕分けにおいても、「国勢調査不要論」まではさすがに出てこないものと、センサスちゃんは思っています。問題はやり方だけであると。


ただ、やり方を見直すにしても、全数調査は譲れません。センサスちゃんとしては、ですがw
理由はただ1点。それは、
国と自治体が「公正な」行政を行うためです。
そして、そのために必要な最低限の項目が、今回定められた20項目なんですね。
ちなみにこれは、2000年国勢調査(前回の「本調査」)から2項目削除されました。*2
この調査はちゃんとやらないと、行政が公正なものにならないんですよ。
「公正な行政など要らん!」ということになって初めて、全数調査の必要がなくなるんだと思います。ですが、税金で運営していることですから、公正さは不要と言う人はおそらくいないでしょう。
(「施策事業の良否や要否」と、ここでいう「公正さ」とは次元の違うものであるとご理解ください。)


「大体の人口」では、それこそどこかの国じゃないですが、いくらでも水増しし放題ですよね?
そんなことをしたら、税金が重くなったり国や自治体の借金が増えていくばかりで財政はすぐに破綻、というイメージは、漠然とでも湧いてきませんか?


代替するものとしてよく出てくる「住民基本台帳」ですが、これをそのまま国勢調査人口に代えるには、すべてのみなさんに住民異動手続きをある特定の日、たとえば調査年の10月1日までにちゃんとしてもらう必要が出てきますが、いかがでしょう?もちろん、現住所≠住民基本台帳上の住所という方だけですが、たっくさんいますよね。。。


「収入(なくなりましたが)や家の広さは税務情報で分かるだろ?」というご意見も時々見かけます。ですが、国勢調査で得た情報が他の目的に使えないのと同様、税務の情報も国勢調査のために使うことなどできないんですよ。
「使えるようにすりゃいいじゃん」という意見も出てきそうですが、それを言い出したら、それこそ
全国民が恐れる「国民総背番号制」に結びつく
って思いませんか?


ちなみに各国の国勢調査における調査項目の数を、ご参考までに。

  • 米国(2000年):53項目(うちショートフォーム:7項目)
  • 英国(2001年):40項目
  • イタリア(2001年):76項目
  • オーストラリア(2006年):61項目
  • 韓国(2005年):44項目(うちショートフォーム:21項目)

アメリカでは国勢調査は休止中ということであるし、日本も一度止めてみたらいい。
ある程度準備が進んでいるから止められないということなのかもしれないが、どうして、そういう議論が起こらないのだろう?

「休止中」は誤解です。米国の国勢調査は10年刻みなんですね。
ということで、次回は2010年4月1日に実施されます。→U.S. Census Bureau(合衆国国勢調査局)特設サイト「2010 Census」


ただし、「止めてみる」という選択肢自体はあっていいと思います。根本的に見直す機会として。


明日の事業仕分けでは、そういった可能性も含めどこまで踏み込んだ議論が展開されるのか、楽しみです。
最悪なのは「経費だけ減らしてやり方は予定どおり」ってオチですがw


ちなみにわが国では、戦争の影響で昭和20年の国勢調査は見送られましたが、その代わりの臨時調査が昭和22年に行われ、その次は昭和25年、以降5年ごとに実施されてきています。
一方、旧西ドイツで1983年、ボイコットに端を発して国勢調査が中止になったことがあったそうなんですが、このことについて詳しくご存知の方がいたら教えていただきたいなあ。。。



  • -

国勢調査担当者センサスちゃんのつぶやき written by センサスちゃん





*1:http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/166/pdf/k031660341660.pdf

*2:削除された項目と、その理由は次のとおり。(統計委員会答申→http://www5.cao.go.jp/statistics/inquiry/tousin/tousin_18.html
1.家計の収入の種類
 ・世帯の忌避感が大きい
 ・政策における利用状況が相対的に低い
 ・公的統計において代替情報が確保されている
2.就業時間
 ・雇用形態把握方法の変更に伴い、把握の必要性が低下している
  (従来は「就業時間」と「従業上の地位」とを組み合わせて正規・非正規相当を把握していた)
 ・公的統計において代替情報が確保されている